自縄自縛 5
が いなくなって2日目の午後。
リムジンの説得で ようやく が帰ってきた。
八戒・悟浄・悟空に対しては 恥ずかしいのか
照れたように振舞うだったが、三蔵への態度は 相変わらず硬かった。
その様子に 八戒と悟浄はため息を吐き、悟空は うなだれる。
悟浄は八戒に目配せをした。八戒もそれに軽く頷く。
「 すいませんが 洗濯を手伝ってもらえますか?」
「はい いいですよ。」
その場の重い空気から 逃れられるために は二つ返事で返した。
その様子に今度は 三蔵の眉間にしわが寄る。
「三蔵 いい加減にしておけよ。
早く何とかしろって! 間に挟まれて 俺達やりきれねぇじゃん。」
「てめぇらには 関係ねぇだろう。」
「の俺達に対する態度は かわんねぇけどよぉ。
三ちゃん ピリピリしてんじゃん。こっちは身がもたねぇ。」
「さんぞうぉ、に 優しくしてやってくれよ。
俺 2人には仲良くしてもらいてぇんだ。
は 笑ってくれているけれど 心の中じゃ泣いてる。
俺達が見てないところでいいからさぁ、このままじゃ またいなくなる。」
悟空は 母親のように慕っているを 何よりも大事にしている。
三蔵とは違った意味で 悟空には必要不可欠な存在なのだ。
悟空の言葉に 側にいたリムジンが 頬を摺り寄せて鳴いた。
その日の夕食時。
「 風呂が済んだら 俺の部屋に来い。」
全員の前で 三蔵はにそう言った。
「わかりました。」の了承の声に 旅の仲間の3人は ほっと安堵の息を漏らしたが、
の側にいた 青華は さっと顔色を変えた。
「様 ちょっとお待ち下さい。
入浴後の女性が 玄奘様のお部屋になど入ってはなりません。
女戒の事はご存知でしょう? 仏道の妨げになるような事はおやめ下さい。」
呼んだ三蔵ではなく 呼ばれたを一方的に責める青華。
「青華 俺は 酒も煙草もましてや 銃で殺生さえ行っているんだ、いまさら 女戒を
おかしても それほど大差ねぇ。」
「それでも なりません。」
「それに との事は 気まぐれでもなけりゃ 旅の間だけのことでもねぇ、
いままでも そしてこれからも 続いていくことだ。
それでも 俺は三蔵の名を 許されている。
いつでも どこでも 仏の目はあるんだ、何時 三蔵で無くなっても不思議じゃねぇが
何も無いって事は 許されていると俺は解釈している。」
「でも・・・・・・」
そこで初めて 青華の父 青雲が言葉をつむいだ。
「青華 もうよしなさい。
おまえがとやかく言うことではない。
それに 様は 普通のお方ではないのだ。
私にも確かな事は分かりませんが 様、貴女様は人ではないのでございましょう?
それに 青華、汚れや穢れが無いからといって 人として清らかだとは言えないんだ。
その穢れを 凌駕したからこそ 玄奘様は 三蔵におなりになったんだ。
また 様も人ならぬ身で 玄奘様に従っておられる。
そういうことなのだよ。」
父親の言葉に 青華は黙ってしまった。
「青華 はな 揚子江神女なんだ。
神様なんだよ、観世音菩薩と知り合いのな。
俺は と関係した時点で 2重の罪に穢れている。
1つは 僧における女人禁制の罪。
もう1つは 種族間を越えた禁忌の罪だ。
何時天罰が下っても不思議じゃねぇ。」
「そんな・・・・・だったら 余計に別れた方がいいのです。
これ以上 罪を重ねてはなりません。」
青華は ヒステリックな声で そう言った。
「青華さん、愛しいと想う事を 知っている貴女なら解るでしょう。
私は 三蔵が『三蔵法師』だから 愛するのではないのです。
三蔵も 私が『神女』だとか『公主』だから 情けをかけているのではないのです。
ただ お互いにその存在を 愛しんでいるのです。
青華さんが どれほど三蔵を崇拝して 私が邪魔者になったとしても これだけは
譲れないのです。」
は 静かだが 気持ちのこもった声で そう説明した。
そのまま 立ち上がると 戸口で会釈して出て行った。
「青華さんにも愛する人が現れたら 今のの言葉が 理解できますよ。
あの2人の間には 誰も入れないのです。
2人が子供のように許している 悟空でさえも 入る事はできないでしょう。
僕たちは 2人を見守ることしか出来ないのですよ。」
八戒は 青華にそう諭した。
その夜半。
は三蔵部屋の前に来ていた。
息を整えてドアを開けようとノブに手を掛けた・・・・・・と同時に
中から三蔵がドアを開けた。
「ドアの前にどれだけいれば気が済む?
さっさと入れ。」が入れるように 身体をよけた。
黙ってドアを通れば 後ろで三蔵がカチッと 鍵を掛けた。
「鍵を掛けないと 逃げ出すと思うの?」
「いや 邪魔が入らないようにしただけだ。」
「それでご用向きはなんでしょうか。」
「そうとんがるな。いい女が台無しだ。」
「どうでしょうか、もう殺してもいいほどの女なのですから
そんな口説き文句は必要ないでしょう?」
「あれは・・・・」
「あれは?」
「リムジンを狙った。を撃とうと思ったわけじゃねぇ。」
「リムは 私の腹心の部下です。
たとえ 腹立ち紛れであろうと 狙って欲しくは無いのです。」
「だろうな。」
「えぇ、これからは そうお願いします。
随分怒っていたのですが、先ほどのお言葉で 帳消しにして差し上げます。
リムと約束したからと言って 三蔵があれほど庇ってくださるとは思いませんでした。
うれしかったです。」
そこで ようやくは三蔵に顔を向けた。
「私が 罪や 血に汚れていても
それでも 三蔵に愛される資格があるのでしょうか?
三蔵の想い人でいることが許されるでしょうか?」
は その白く華奢な両手を 見つめながら三蔵に問うた。
「さっき 青雲も言っていたことだが、罪や血に汚れているのは 見た目の話だ。
俺から見りゃ 自身は 汚れてねぇ。
てめぇの内側の汚れや穢れというものを どうするかは 自身の問題だろう。
がダメだと思ったときには 内側から崩れて行くさ。
俺は が神女だからとか 公主だから愛しているんじゃねぇ。
たとえ が拒んだとしても てめぇは 俺に愛されていることには 変わらねぇ。
そういうことだ。」
「私自身の問題ですか?」
「あぁ は 何のために その手を汚している?」
「三蔵と共にいるためです。
みんなと自分の命を守るためです。」
「八戒が 自分の罪に対して『この手がどんなに紅く染まろうと血は洗い流せる。』と
そう言っていた。
所詮 綺麗事だけで生きていこうなど 欺瞞(ぎまん)でしかねぇよ。」
「そうですね、血は洗い流せますね。
内側の方は 命の洗濯でもしましょうか・・・・・ねぇ 三蔵。」
は 三蔵の好きな顔で微笑んだ。
その笑顔を見て 三蔵は煙草に手を伸ばした。
「三蔵 後どの位あなたに恋をしている女の子がいるんですか?」
「あぁ?・・・知るか!」
「思い出したら ちゃんと教えておいて下さいね。
それなりに対処しますから・・・・今回のように不意討ちでは 私も気持ちを隠すことだけで
精一杯になってしまいます。」
「それは 嫉妬していたと言うことか?」
「三蔵 鈍いですよ。」
「 いい加減にしろよ!口が過ぎるぞ。
でも それなら その嫉妬を鎮めてやらねばならないな。
それに 俺を疑った罰も与えなければならないし、今夜は忙しいな。
時間が惜しい、・・・来い。」
三蔵はを 自分に引き寄せると ベッドに組み伏した。
「三蔵 ダメです。」
「今夜は 女戒を犯すと公言してある、気にするな。」
「それでも・・・・・」
「あいつらも心配していたんだ、仲直りした証拠を聞かせてやれ。
俺も の啼き声を 楽しみてぇ。」
そう言って 口付けを落とす三蔵を は止めることが出来なかった。
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良い子の皆さんには 「自縄自縛」は ここで完結です。
大人の皆さんには 「月の裏側」の「自縄自縛 6」で完結とさせていただきます。
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